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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)1485号 判決 1973年10月17日

原告 国

訴訟代理人 柴田次郎 外三名

被告 株式会社第一勧業銀行

主文

被告は原告に対し金一〇三万一六五七円及びうち一〇三万円に対する昭和四六年五月二七日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文一、二項と同旨及び仮執行の宣言

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  原告(所管庁、東京国税局長)は、昭和四五年九月一日、訴外相馬雄二に対し、同人が国税徴収法第三九条の規定に基づき四六二七万円の限度において第二次納税義務を負担すべき訴外相馬和の同日現在における納期限経過後の国税、すなわち昭和四四年度及び同四五年度申告所得税(本税)三七三一万五三〇〇円並びにその延滞税につき、徴収しようとする金額を前記四六二七万円の限度で右滞納国税の全額、納付の期限を同年一〇月一日とする納付通知書を発し、右通知書は同年九月八日相馬雄二に送達された。ところが同人は右滞納国税を納付しないので、原告は同人に対し、同月二〇日送達の納付催告書によりその納付を督促した。

(二)  相馬雄二は、昭和四六年五月二六日現在、訴外株式会社第一銀行大久保支店に対し、別紙預金債権目録記載のとおり、架空名義による本件預金債権(確定利息債権を含む)を有していた。

(三)  原告は、同日第一銀行大久保支店において、同支店に対し、前記相馬雄二の第二次納税義務にかかる滞納国税徴収のため、本件預金債権(確定利息債権を含む)を差押えることとし、被差押債権の履行期限を即時と定める旨の債権差押通知書を交付して送達し、履行を催告した。

(四)  被告は昭和四六年一一月二九日第一銀行を合併し、右差押にかかる債務を承継した。

(五)  よつて、原告は被告に対し、本件普通預金債権元本一〇三万円と差押の日までの確定利息一六五七円の合計一〇三万一六五七円及びうち元本一〇三万円に対する差押の翌日から完済まで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。

二  請求原因に対する認否

(一)  (一)の事実は知らない。

(二)  (二)の事実のうち、第一銀行大久保支店が山崎寿子なる者と普通預金取引を行い、原告主張の日現在の預入残高(元本)が一〇三万円であつたことは認めるが、右山崎寿子の名義が相馬雄二の架空名義であることは否認する。山崎寿子なる者からも、昭和四六年一二月二八日本件普通預金通帳の紛失届が、次いで同四七年一月一二日通帳発見届があり、その前後に預金の払戻請求がなされている(もつとも被告は原告の差押を理由に請求に応じなかつた。)。

(三)  (三)のうち原告主張の債権差押通知書(ただし、履行期限の点を除く)の送達を受けたことは認めるが、履行の催告があつたことは否認する。

(四)  (四)の事実は認める。

(五)  被告に年六分の割合による遅延損害金の支払義務があるとする原告の主張は争う。かりに本件預金債権の債権者が相馬雄二であつたとしても、架空名義による預金であつたため、被告は、弁済者として過失なくして債権者を確知しえなかつたのであるから、普通預金の約定利率によるのは格別、年六分の遅延損害金を支払う義務はない。

第三証拠<省略>

理由

一  請求の原因(一)の事実は、成立に争いのない甲第一号証、第二号証の一ないし四、第三号証の一ないし五によつてこれを認めることができ、訴外株式会社第一銀行大久保支店に、預金者を山崎寿子名義とする本件普通預金の取引があり、昭和四六年五月二六日現在の預入残高(元本)が金一〇三万円であつたことは当事者間に争いがなく、同日現在の確定利息が金一六五七円であつたことは被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

二  そこで、本件預金債権の債権者は相馬雄二であるとの原告の主張について判断する。

成立に争いのない甲第五号証、第六号証の一、第七号証、第九号証、第一〇号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第六号証の二ないし一六、官署作成部分の成立に争いがなく、右事実及び弁論の全趣旨から、その余の部分の成立を認める乙第八号証の一、並びにその余の部分の原本の存在及び成立を認める同号証の二、三、山崎寿子作成部分は前記各証拠を総合して相馬雄二が山崎寿子なる架空名義を用いて作成したものと認められ、その余の部分は弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一ないし第四号証に弁論の全趣旨を総合すると、次のような事実が認められる。すなわち、本件普通預金は、昭和四六年五月六日金三〇〇万円の入金をもつて取引が開始されたこと、右三〇〇万円の入金には、山崎寿子名義をもつて第一銀行自由ケ丘支店から同銀行大久保支店の山崎寿子名義宛に振込まれた金三〇〇万円が充てられたこと、右三〇〇万円の自由ケ丘支店に対する振込みの資金は、同月四日ごろ同支店に対し、株式会社横浜銀行振出の金額三〇〇万円の小切手をもつて払い込まれていたこと、右小切手には「新宿区百人町三の二八五、山崎寿子」の裏書がなされているが、右小切手は、相馬雄二が同月一日ごろ訴外平井良雄から交付を受けて取得した横浜銀行振出、金額各三〇〇万円の小切手六通(金額合計一八〇〇万円)のうちの一通であること、本件預金の預金通帳及び届出印は相馬雄二が所持していたこと、山崎寿子の届出住所である東京都新宿区百人町三丁目二八五番地に山崎寿子なる人物が居住していた事実はないこと、昭和四六年一二月一一日真野郷子なる者から東京国税局長に対し、本件預金債権の差押(この差押の事実は後記のとおり当事者間に争いがない)に対する異議の申立があつたが、その申立の理由は、本件預金債権は、真野が相馬雄二に対する貸金一〇〇万円の返済を受けるために本件差押前に相馬雄二からすでにその譲渡を受けていたというにあり、本件預金債権が相馬雄二に帰属し、山崎寿子はその架空名義にすぎないことを当然の前提としていたこと、右真野は、前記異議申立のころ、すでに相馬雄二から本件預金の預金通帳及びその届出印の交付を受けて、これを所持しており、原告の係官に対してこれらを提示したこともあること、以上の事実が認められる。右認定の事実によると、山崎寿子なる名義は、相馬雄二が第一銀行大久保支店における本件預金との関係で便宜使用していた架空の名義にすぎず、本件預金の債権者は相馬雄二であると認めるのが相当である。乙第五号証の一、二も右認定を左右するものではなく、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

三  原告が、その主張のとおり、第一銀行大久保支店において、同支店に対し、本件預金債権の債権差押通知書を交付して送達したことは、履行期限の定めの点を除いて、当事者間に争いがない。すると、原告は、右債権差押通知書の送達により本件預金債権(確定利息債権を含む)の全額につき、国税徴収法第六七条一項の規定による取立権を取得したものというべきである。

四  次に、履行の催告の点について判断するに、成立に争いのない甲第四号証によると、本件債権差押通知書には、履行期限の欄に「即時」と明記されていることが認められ、この事実に、右債権差押通知書が第一銀行大久保支店において、同支店に交付して送達されたとの当事者間に争いのない事実を総合すると、他に反証のない本件の場合、右通知書の交付の際に、同支店において、同支店に対し、原告の係官から本件預金債権につき履行の催告がなされたものと推認できないわけのものではない。すると、訴外銀行は右履行の催告により本件預金債権につき遅滞に陥つたものということができる。

五  被告が、原告主張のとおり、合併により第一銀行の本件預金債務を承継したことは当事者間に争いがない。

六  以上によると、被告は原告に対し、本件預金債権元本一〇三万円と差押の日までの確定利息一六五七円の合計一〇三万一六五七円及びうち元本一〇三万円に対する差押の翌日から完済まで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるものといわねばならない。

被告は、弁済者として過失なくして債権者を確知しえなかつたのであるから、普通預金の約定利率によるのは格別、年六分の遅延損害金を支払う義務はないと主張するけれども、金銭債権の不履行については、債務者は不可抗力をもつて抗弁となしえない(民法四一九条二項)ことからみても、不履行が単に債務者の責に帰すべき理由によらないことをもつて抗弁とすることができないことは明らかであり、被告の右主張は採用できない(被告としては、弁済のための供託をすることにより、債務不履行の責を免れることもできたのである。)。

七  よつて被告に対して前記義務の履行を求める原告の請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平田浩)

別紙 預金債権目録

(イ) 預金種別 普通預金

(ロ) 口座番号 一三一-六七〇

(ハ) 名義人 山崎寿子

(ニ) 預入残高 一〇三万円

(ホ) 昭和四六年五月二六日現在の確定利息

一六五七円

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